2020年2月3日月曜日

2020.02.03 わが友に贈る

◇今週のことば
新しい人に光を当て
新しい力を引き出そう。
「ほむれば弥功徳まさる」
真心の励ましの波動を!
人材を育む真の人材たれ
2020年2月3日

上野殿御返事 P1537
『欲界第六天の魔王無量の眷属を具足してうち下り、摩竭提国の提婆阿闍世六大臣等の身に入りかはりしかば形は人なれども力は第六天の力なり』

【通解】
欲界の第六天の魔王が量り知れないほどの眷属を引き連れて打ち下り、摩竭提国の提婆達多や阿闍世王や六大臣等の身に入り替わったので、形は人間であっても力は第六天の魔王の力であった。

名字の言 小さな目標達成の積み重ね——心理学の「スモールステップの原理」とは? 2020年2月3日
男子部の小単位の集いに参加した時のこと。一人の大学校生が「唱題と読書がなかなかできなくて……」と不安顔。先輩が言った。「まず、"これならできる"という目標を決め、挑戦してみよう」▼1週間後の集い。「朝晩5分ずつ唱題を実践し、小説『人間革命』を毎日2ページ読みました!」と大学校生。"一歩前進"の報告に、拍手と笑顔が広がった▼その後、少しずつ目標を上げていった彼は、1年間で100万遍の題目を唱え、小説『人間革命』全12巻を読了。さらに友人に弘教を実らせた。「毎週の"できた!"という喜びが自信になりました。次もみんなに報告しようと思うと、頑張り抜くことができたんです」▼心理学には「スモールステップの原理」という考え方がある。高い目標を目指すために、小さな目標を段階的に達成していくことが重要というもの。それによって意欲が高まり、行動が持続する。臨床心理士の黒澤礼子さんは本紙で「ちょっと努力したら越えられそうな小さな目標を設定して、上手にできたら褒める(スモールステップ)といった地道な努力が大切」と語った▼広布拡大の挑戦は、人と比べるものではない。"昨日の自分"を越えたかどうか。一人一人の"きょうの一歩"を皆でたたえ合い、朗らかに前進しよう。(叶)

寸鉄 2020年2月3日
さあ勇敢に楽しく戦おうじゃないか—戸田先生。痛快なる拡大の劇を皆と
「法華経は随自意なり」御書。相手を思う誠意は通じる。堂々と語り抜け
笑顔忘れぬ人は本番にも強いと。受験本番。鳳雛よ悔いなく。実力出し切れ
防災地図の認知度は3割—調査。地域に潜む危険を知る。これ命守る一歩
金融機関4割にサイバー攻撃が。不審なメールは開かない等、警戒我らも

☆第45回SGI提言� 「核兵器禁止条約」の本年中の発効を
◇核兵器禁止条約を早期に発効し被爆地で「民衆フォーラム」を開催
続いて、誰もが尊厳をもって安心して生きられる「持続可能な地球社会」の建設に向けて、4項目の具体的な提案を行いたい。
第一の提案は、核兵器禁止条約に関するものです。
広島と長崎への原爆投下から75年にあたる本年中に、核兵器禁止条約を何としても発効に導き、"核時代と決別する出発年"としていくことを強く呼び掛けたい。
2017年7月の採択以来、これまで80カ国が署名し、35カ国が批准を終えました。条約発効に必要となる「50カ国の批准」を早期に実現するために、参加国の拡大の勢いを増していくことが求められます。
こうした中、アメリカとロシアの間で核軍縮の礎石となってきた中距離核戦力(INF)全廃条約(※注4)が失効するなど、核軍拡競争が、今再び激化しようとしています。
国連軍縮研究所のレナタ・ドゥワン所長が「核兵器が使われるリスクは第2次世界大戦後で最も高い」と警告するような状況に直面しており、核兵器禁止条約の発効をもって明確な楔を打ち込むことが急務であると思えてなりません。

◇世界の方向性を形づくる国際規範
現在のところ、核兵器禁止条約には核保有国や核依存国は加わっていませんが、発効によって打ち立てられる"いかなる場合も核兵器の使用を禁止する"との規定には、非常に大きな歴史的意義があります。
そこには何より、広島と長崎の被爆者をはじめ、核開発や核実験による被害を受けた世界のヒバクシャが抱き続けてきた"二度と同じ苦しみを誰にも経験させたくない"との誓いが凝縮されています。
その上、国連のグテーレス事務総長が核兵器の完全な廃絶は「国連のDNA」であると強調しているように、1946年に初開催された国連総会での第1号決議で核兵器の廃絶が掲げられて以来、核問題の解決を求める決議が何度も積み重ねられる中で、ついに実現をみたのが核兵器禁止条約だったからです。
また、核兵器禁止条約への署名と批准の広がりは、50年前(1970年3月)に発効した核拡散防止条約(NPT)と比べても、さほど変わるものではありません。
NPTの発効時の署名国は97カ国で、批准国は47カ国にすぎませんでした。
それでも、NPTを通じて"核兵器の拡散は許されない"との規範意識が次第に定着していく中で、核兵器の保有を検討していた国の多くが非核の道を選び取ったほか、南アフリカ共和国のように、一時は核兵器を開発して保有しながらも自発的に廃棄を果たし、NPTの枠組みに加わった国まで現れました。
核兵器の拡散防止も、NPTが発効するまでは「理想」の段階にとどまっていた。しかし、ひとたび条約が発効し、批准国が拡大することで、世界のあり方を大きく規定する「現実」へと変わっていったのです。
このように、最初の段階で締約国が十分な広がりを見せていなかったとしても、条約の発効には世界の新しい方向性を明確に形づくる影響力があるといえましょう。
新たな国際規範を設けることの意義について論じた興味深い考察があります。
核兵器禁止条約に先駆けて、核廃絶を実現するための草案としてモデル核兵器条約を97年に起草した、メラフ・ダータン氏とユルゲン・シェフラン氏は、論考の中でこう述べています。
「国際法と国際関係との領域の区分が、理想と現実とのギャップを示しているとすれば、モデル核兵器条約は理想を形にしたもので、NPTは現実を表しているといえよう」
「核兵器禁止条約は、この理想と現実の両方を体現したものだ。核兵器国の署名がまだないために理想ともいえるが、条約が存在するという点において現実である」と。
その上で両氏は、「条約への反対や軍縮への抵抗が実際にあるとしても、規範の価値とその発展を打ち消すものではない」と強調していますが、私も深く同意するものです。
今後の焦点となるのは、条約の発効によって打ち立てられる"いかなる場合も核兵器の使用を禁止する"との規定に対し、どの国であろうと揺るがすことのできない重みを帯びさせることではないでしょうか。
ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営団体の一つである「ノルウェー・ピープルズエイド」の昨年の報告書によると、核兵器禁止条約を支持する国々は135カ国にのぼるといいます。
加えて各国の自治体の間でも、条約の支持を表明する動きが広がっています。
2年前に始まった「ICANシティーズ・アピール」には、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスをはじめ、核依存国のドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、イタリア、スペイン、ノルウェー、カナダ、日本、オーストラリアのほか、スイスの自治体が加わっています。
その中には、核保有国の首都であるワシントンDCやパリに加え、核依存国の首都であるベルリン、オスロ、キャンベラも含まれているのです。
また昨年10月には、すべての国に核兵器禁止条約への加盟を求める「ヒバクシャ国際署名」が国連に提出されました。
広島と長崎の被爆者の呼び掛けで4年前に始まった活動で、創価学会平和委員会も運営団体として参画してきましたが、核保有国や核依存国を含む多くの国から1051万人の署名が寄せられたのです。
このようにさまざまな形で表れているグローバルな民意を、さらに力強く結集する中で、"核兵器の禁止の規範化"を大きく前に進めることが重要ではないでしょうか。

◇どの国の民衆にも惨害を起こさない
そこで提案したいのは、核兵器禁止条約の発効後に行われる第1回締約国会合を受ける形で、世界のヒバクシャをはじめ、条約を支持する各国の自治体やNGO(非政府組織)の代表らが参加しての「核なき世界を選択する民衆フォーラム」を、広島か長崎で開催することです。
「核なき世界を選択する民衆フォーラム」の開催を提案したのは、"どの国の民衆にも核兵器の惨害を起こしてはならない"との共通認識に基づく議論を民衆自身の手で喚起することが、核兵器の禁止を「グローバルな人類の規範」として根付かせるために欠かせないと考えるからです。
唯一の戦争被爆国である日本が、核兵器の非人道性を巡る国際的な議論をさらに深めるための努力を重ね、核保有国と非保有国の橋渡しの役割を担うことを切に望むものです。
過去70年以上にわたって厚い壁に覆われ続けていた、核兵器禁止条約の交渉開始への突破口を開いたのは、2013年から3回にわたって開催されてきた「核兵器の人道的影響に関する国際会議」でした。
そこでの議論を通じて浮かび上がったのが、次のような重要な観点です。
�いかなる国も国際機関も、核爆発によって引き起こされた直接的被害に適切に対処し、被害者を救援するのは困難であること。
�核爆発の影響は国境内に押しとどめることは不可能で、深刻で長期的な被害をもたらし、人類の生存さえ脅かしかねないこと。
�核爆発による間接的な影響で社会・経済開発が阻害され、環境も悪化するために、貧しく弱い立場に置かれた人々が最も深刻な被害を受けること。
このように、「核兵器で守ろうとする国家の安全」ではなく、「核兵器の使用によって被害を受ける人間」の側から問題の所在が明らかにされていく中で、核兵器禁止条約の交渉開始のうねりが高まっていったのです。

◇人権法の中核をなす「生命に対する権利」
核兵器禁止条約の採択後も、2018年10月に国連の自由権規約委員会が、"核兵器の威嚇と使用は「生命に対する権利」の尊重と相容れない"と明記した一般的意見を採択するという動きがありました。
「生命に対する権利」は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)において、緊急事態であっても例外なく守られなければならない"逸脱できない権利"として位置付けられており、国際人権法の中でも際立って重要とされているものです。
国際人権法の中核をなす権利との関係において、核兵器の威嚇と使用の重大な問題性が明確に指摘されたことの意義は、誠に大きいと思えてなりません。
私の師である戸田第2代会長が1957年9月に発表した「原水爆禁止宣言」で何よりの立脚点にしていたのも、世界の民衆の生存の権利を守る重要性にほかなりませんでした。
核兵器禁止条約の第1回締約国会合の開催を受ける形で、「核なき世界を選択する民衆フォーラム」を行い、この「生命に対する権利」に特に焦点を当てながら、人権の観点から核兵器の非人道性を浮き彫りにする議論を深めていってはどうかと思うのです。

◇母と子が安心して暮らせる世界を!
また、民衆フォーラムの開催を通して、核兵器の禁止によって築きたい世界の姿について、互いの思いを分かち合う場にしていくことを呼び掛けたい。
核兵器禁止条約の制定にあたって、これまで核問題とは結びつけられてこなかったジェンダーの視座が盛り込まれたのも、長らく見過ごされてきた被害の実相を浮かび上がらせた女性の声がきっかけでした。
2014年12月に行われた第3回の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」で、メアリー・オルソンさんが、核兵器使用による放射線の有害性が男性よりも女性に顕著に表れる事実を明確に示したことを機に議論が深まる中で、核兵器禁止条約の前文に次の一文が明記されるようになったのです。
「女性及び男性の双方による平等、十分かつ効果的な参加は、持続可能な平和及び安全を促進し及び達成することにとり不可欠な要素であることを認識し、女性の核軍縮への効果的な参加を支援しかつ強化することを約束する」と。
これは、核兵器の禁止を通して目指すべき世界のビジョンの輪郭を、ジェンダーの視座から照らし出したものといえましょう。
創価学会が長年にわたって発刊してきた広島と長崎の被爆証言集にも、多くの女性たちの体験が収録されています。
このうち4年前に発刊した『女性たちのヒロシマ』では、14人の女性による証言を通し、被爆の影響による後遺症などへの不安を抱える中で、結婚や出産をはじめ、女性であるがゆえに強く受けてきた偏見や苦しみが綴られています。
しかし、そのメッセージは"同じ悲劇を誰にも経験させたくない"との被爆者としての強い実感にとどまるものではありません。
副題が「笑顔かがやく未来(あした)へ」となっているように、"母と子が安心して平和に暮らせる世界を共に築きたい"との誓いが脈打っているのです。
核兵器禁止条約の普遍性を高めるためには、「人間としての実感」に根差した思いを多くの人々の間で分かち合うことが、重要な意味を持ってくるのではないでしょうか。
平和や軍縮に関心を持つ人だけでなく、ジェンダーや人権の問題、さらには家族や子どもたちの未来に思いを馳せる人たちをはじめ、国や立場の違いを超えた多くの民衆の支持が結集されてこそ、核兵器禁止条約は「グローバルな人類の規範」としての力を宿していくに違いないと確信するのです。

☆第45回SGI提言� 保有5カ国による核軍縮交渉を開始
◇新STARTの延長を基盤に保有5カ国で核軍縮条約を
◇NPT再検討会議で実現すべき合意
次に第二の提案として、核軍縮を本格的に進めるための方策について述べたい。
具体的には、4月から5月にかけてニューヨークの国連本部で行われるNPT再検討会議で、「多国間の核軍縮交渉の開始」についての合意と、「AI(人工知能)などの新技術と核兵器の問題を巡る協議」に関する合意を最終文書に盛り込むことを呼び掛けたいと思います。
一つ目の合意については、アメリカとロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長を確保した上で、多国間の核軍縮交渉の道を開くことが肝要となると考えます。
新STARTは、両国の戦略核弾頭を1550発にまで削減するとともに、大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射弾道ミサイルなどの配備数を700基にまで削減する枠組みで、明年2月に期限を迎えます。
5年間の延長が可能となっていますが、協議は難航しており、INF全廃条約に続いて新STARTの枠組みまで失われることになれば、およそ半世紀ぶりに両国が核戦力の運用において"相互の制約を一切受けない状態"が生じることになります。
この空白状態によって生じる恐れがあるのは、核軍拡競争の再燃だけではありません。
今後、小型の核弾頭や超音速兵器の開発が加速することで、局地的な攻撃において核兵器を使用することの検討さえ現実味を帯びかねないとの懸念の声も上がっています。
ゆえに、新STARTの5年延長を確保することがまずもって必要であり、NPT再検討会議での議論を通して、核兵器の近代化に対するモラトリアム(自発的停止)の流れを生み出すことが急務だと訴えたい。その上で、「次回の2025年の再検討会議までに、多国間の核軍縮交渉を開始する」との合意を図るべきではないでしょうか。
50年にわたるNPTの歴史で、核軍縮の枠組みができたのはアメリカとロシアとの2国間だけであり、多国間の枠組みに基づく核軍縮は一度も実現していません。
NPTはすべての核兵器国が核軍縮という目標を共有し、完遂を誓約している唯一の法的拘束力のある条約であることを、今一度、再検討会議の場で確認し合い、目に見える形での行動を起こす必要があります。
具体的な進め方については、さまざまなアプローチがあるでしょうが、私はここで一つの試案を提示しておきたい。 
それは、「新STARTの5年延長」を土台にした上で、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国による新たな核軍縮条約づくりを目指し、まずは核軍縮の検証体制に関する対話に着手するという案です。
これまでアメリカとロシアが実際に行ってきた検証での経験や、多くの国が参加して5年前から継続的に行われてきた「核軍縮検証のための国際パートナーシップ」での議論も踏まえながら、5カ国で核軍縮を実施するための課題について議論を進めていく。
その上で、対話を通じて得られた信頼醸成を追い風にして、核兵器の削減数についての交渉を本格的に開始することが望ましいのではないかと思います。

◇共通の安全保障の精神を顧みる
多国間の核軍縮の機運を高めるために重要な鍵を握ると考えるのは、冷戦終結の道を開く後押しとなった「共通の安全保障」の精神を顧みることです。
1982年6月に行われた国連の第2回軍縮特別総会に寄せて、スウェーデンのパルメ首相らによる委員会が打ち出したもので、"核戦争に勝者はない"との認識に基づいて、次のような意識転換が促されていました。
「諸国家はもはや、他国を犠牲にして安全性を追求することはできない。すなわち相互協力によってしか、安全は得られない」(『共通の安全保障』森治樹監訳、日本放送出版協会)と。
私もその時、第2回軍縮特別総会に向けた提言で、「膨大な核戦力が対峙している以上、いかに軍事力を増強させようと、とうてい真の平和は保ちえない」と訴えていただけに、深く共感できる考え方でした。
その前年(81年)、アメリカとソ連の関係が厳しさを増す中で、レーガン大統領は対決姿勢を鮮明にし、ヨーロッパでの限定核戦争もあり得るとまで発言していました。
当時の心境について、レーガン大統領はこう記しています。
「われわれの政策は、力と現実主義に基づいたものでなければならない。私が望んだのは力を通じての平和であって、一片の紙切れを通じての平和ではなかった」(『わがアメリカンドリーム』尾崎浩訳、読売新聞社)と。
しかし、欧米諸国の市民による反核運動の高まりがあり、核兵器の使用がもたらす壊滅的な被害に対する認識も深めるにつれて、レーガン大統領は"核戦争を起こしてはならない"との思いを強めていった。
また、核兵器で対峙するソ連の人々がどんな気持ちを抱いているかについて思いを馳せる中で、ソ連のチェルネンコ書記長に手紙を送った時のことを回想し、こう綴っていました。
「チェルネンコへの手紙の中で私は、直接的、かつ内密に交信することはわれわれ双方にとって利益があると思っている、と述べた。そして俳優時代になじんだ感情移入のテクニックを使うように努めた」「そしてソ連国内の一部の人は、わがアメリカを本当に恐れているようだと私は理解している、と続けた」(同)
こうした想起を通して、相手側の不安と自国側の不安とが"鏡映し"であることを実感したレーガン大統領が、ソ連との対話を模索する中で実現したのが、85年11月にジュネーブで行われたゴルバチョフ書記長との首脳会談だったのです。
同じく核問題の解決の必要性を強く認識していたゴルバチョフ書記長と、胸襟を開いた対話を続けた結果、両首脳による共同声明として世界に発信されたのが、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」との有名なメッセージでした。
そこには「共通の安全保障」に通じる考え方が脈打っており、それが87年12月のINF全廃条約の締結へとつながり、冷戦を終結させる原動力ともなっていったのです。
時を経て再び、核兵器を巡る緊張が高まり、"新冷戦"とまで呼ばれる状況に世界が直面する今、「共通の安全保障」の精神を呼び覚ますことが大切ではないでしょうか。
ゆえに私は、NPT発効50周年を迎えるにあたり、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」との宣言を、NPTの締約国の総意として今回の再検討会議の最終文書に明記することを提案したい。
国連が2018年5月に発表した軍縮アジェンダでも、「人類を救うための軍縮」との視座が打ち出されていました。作成に携わった国連の中満泉・軍縮担当上級代表は、その発表翌日に行ったスピーチで、軍縮と安全保障との関係について、こう述べています。
「軍縮は、国際平和と安全保障の原動力であり、国家の安全保障を確保するための有用な手段である」
「軍縮はユートピア的な理想ではなく、紛争を予防し、いついかなる時、場所であれ、紛争が起こった際に、その影響を緩和するための具体的な追求である」と。
自国の安全保障を確保するための「有用な手段」として核軍縮の交渉を進め、他の国々が感じてきた脅威や不安を取り除くことで、自国が他国から感じてきた脅威や不安を取り除いていく——。
NPT第6条が求める核軍縮の誠実な履行を、こうした互いが勝者となる"ウィンウィンの関係"を基盤として、今こそ力強く推進していくべきであると訴えたいのです。

◇核運用におけるAI導入やサイバー攻撃の禁止が急務
◇新技術の発達が兵器に及ぼす影響
また私がもう一つ、NPT再検討会議で目指すべき合意として特に求めたいのは、「核関連システムに対するサイバー攻撃」や「核兵器の運用におけるAI導入」の危険性に対する共通認識を深め、禁止のルールづくりのための協議を開始することです。
インターネットなどのサイバー空間やAIに関する新技術は、社会に多くの恩恵をもたらしてきた一方で、それを軍事的な目的に利用しようとする動きが進んでいます。
昨年3月、こうした新技術に伴う問題を巡る会議がベルリンで行われました。
EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)の国々をはじめ、ロシア、中国、インド、日本、ブラジルの政府代表が参加した会議で焦点となったのは、ロボット兵器の通称で呼ばれる自律型致死兵器システム(LAWS)の問題に加えて、新技術の発達が核兵器などの多くの兵器に及ぼす影響についてでした。
その上で、ドイツとオランダとスウェーデンの外相による政治宣言として、「技術的に進化した軍事能力がいかにして戦争の性格を変え、世界の安全保障に影響を与えるかについて、共通の理解を構築する必要がある」(IDN—InDepthNews 2019年3月17日配信)との問題提起がされていたのです。
核兵器に安全保障を依存してきた国などからも懸念が示されるほど、新技術の発達のスピードは速く、私は、緊急性が増す核兵器と新技術を巡る討議をNPTの枠組みで早急に開始することを提案したい。
1995年にNPTの無期限延長が決まった時、条約の再検討では、過去の合意の達成状況の精査だけでなく、将来において進展が図られるべき分野と、そのための手段を特定する重要性が提起されていました。
核兵器と新技術の問題は、緊急性と被害の甚大さを踏まえると、まさに最優先で取り上げるべき分野ではないかと思うのです。
まずサイバー攻撃に関して言えば、核兵器の指揮統制だけでなく、早期警戒、通信、運搬など多岐にわたるシステムに危険が及ぶ恐れがあります。
いずれかのシステムに対して、サイバー攻撃が実行されることになれば、単なる不正侵入にとどまらず、最悪の場合、核兵器の発射や爆発を引き起こす事態を招きかねません。
この問題に関し、国連のグテーレス事務総長も警鐘を鳴らしていました。
「国連憲章を含め、国際法がサイバー空間にも適用されるというコンセンサスはすでに存在しています。しかし、実際に国際法がどのように適用されるのか、また、国家が法律の枠内で悪意ある、または敵対的な行為にいかに対応できるのかについては、コンセンサスはありません」(国連広報センターのウェブサイト)と。
その基盤をつくる意味でも、「核関連システムに対するサイバー攻撃」の禁止をNPTの枠組みを通して早急に確立し、核リスクの低減を図るべきではないでしょうか。

◇不安や猜疑心を強める危険
同じく、「核兵器の運用におけるAI導入」も、多くの危険を引き寄せかねないものです。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が昨年5月に発表した報告書では、その問題点を詳しく分析しています。
それによると、核保有国にとってのAI導入のメリットは、人間の場合には避けられない疲労や恐怖を排除できることに加え、深海や極地といった厳しい生存環境や危険が伴う場所での任務を無人の装置で代替できることなどが挙げられるといいます。
しかし、AIへの依存度を強めれば強めるほど、核兵器の運用を不安定にする要素が増え、かえって核使用のリスクを高める方向に働きかねないと警告しているのです。
そこでは、従来の核抑止論の基盤をなしてきた相手の出方に関する心理学的な認知が通用しなくなることが指摘されています。
AIが主要な役割を担うようになれば、状況判断の過程がブラックボックス化して、相手の出方がますます読めなくなり、不安や猜疑心がさらに募る状態を招くからです。
報告書は、こう記しています。
「冷戦中、アメリカとソ連は互いの戦略システムと行動を研究するために多大な時間と努力を費やし、国防関係の代表は、必ずしも生産的というわけではなかったにせよ、頻繁に会っていた」と。
心理学的な認知といっても、直接の出会いを重ねる実体験が伴っていたからこそ、相手の出方をある程度予測できる関係を築くことができていたのではないでしょうか。
また冷戦時代、誤った情報や装置の誤作動で、他国から核ミサイルの発射があったとの警報が出る事態が何度も起きました。
その時に、危機を未然に防いだのは、監視画面に表示された情報をうのみにせず、情勢的にそれはあり得ないとの健全な懐疑心を働かせて、対抗措置としての核攻撃の中止を進言した人々の存在だったのです。
まして現在は、サイバー攻撃による「ハッキング」や「なりすまし」の危険にもさらされており、AIの導入が進めば、誤った情報に対してだけでなく、偽の情報に対する脆弱性も増すことになりかねません。
もちろん、AIへの依存度がどれだけ強まったとしても、核兵器の発射の最終判断は、人間の手を離れることはまずないでしょう。
しかし、AIの導入競争が核保有国の間で進むことが、深刻なジレンマをもたらす危険性に目を向ける必要があります。
AIの導入は自国が優位に立つための"軍事行動のスピード化"につながるかもしれませんが、一方でそれは、1962年のキューバ危機の際にケネディ大統領やフルシチョフ書記長が直面したようなジレンマを、少しの猶予も許さずに迫るものとなるからです。
世界を震撼させた危機の教訓を顧みて、ケネディ大統領はこう述べました。
「核保有国は、相手国に対して、屈辱的な退却か核戦争かを強いるような対決を避けなければなりません」(『英和対訳ケネディ大統領演説集』長谷川潔訳注、南雲堂)と。
そのジレンマがどれほど薄氷を踏むものだったのか、悔恨がにじみ出ている言葉ですが、それでも当時の両首脳には"13日間"という熟議を重ねる時間がありました。
ところが、スピード化の競争が進めば、相手に先を越されることへのプレッシャーが一層強まって、熟議に基づく判断の介在する余地がそれだけ失われることになります。
この点、SIPRIの報告書でも、「より速く、より賢く、より正確で、より多目的な兵器を探求することは、不安定な軍拡競争をもたらす可能性がある」と指摘しています。
核兵器とAIとの結びつきは先制攻撃を促す方向に働くことはあっても、核戦争を止める力にはなりえないと強く訴えたいのです。
NPTの前文に刻まれているように、核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払うことが、条約を貫く精神だったはずです。
その一点を全締約国の共通の土台としながら、サイバー攻撃やAIの導入を巡る協議を今後進める中で、核兵器に安全保障を依存し続けることの意味についても問い直していくことが、肝要ではないでしょうか。