新聞休刊日
蒙古使御書 P1473
『所詮万法は己心に収まりて一塵もかけず九山八海も我が身に備わりて日月衆星も己心にあり』
☆第43回「SGIの日」記念提言(下)2 「人権の世紀へ 民衆の大河」
◇国連が採択目指す二つの国際枠組み
次に第二のテーマとして、人権に関する具体的な提案を行いたいと思います。
まず提起したいのは、難民と移民の子どもたちを巡る状況の改善です。
国連では現在、グローバル・コンパクトと呼ばれる難民と移民に関する二つの国際枠組みの年内の採択が目指されています。
私は、このグローバル・コンパクトにおいて、すべての項目を貫く原則として人権を掲げた上で、重点課題の一つとして「子どもたちの教育機会の確保」を各国共通の誓約にすることを、強く呼び掛けたい。
現在、難民や国内避難民などの数は、世界全体で6560万人に達し、難民の半数は子どもたちが占めています。
移民の子どもたちの多くも、移民全体に対する偏見や差別の影響で厳しい状況に置かれています。
特に深刻なのは、保護者から離れて各地を移動する子どもたちの状況であり、ユニセフ(国連児童基金)が昨年発表した報告書によると、2010年以降、その数は約5倍に増加し、80カ国で約30万人に及んでいるといいます。
ユニセフの報告書の題名が「子どもは子ども」となっているように、難民や移民といった境遇の違いに関係なく、すべての子どもの権利と尊厳は等しく守らなければならないというのが、世界人権宣言と子どもの権利条約の根本理念ではないでしょうか。
2年前の「難民と移民に関する国連サミット」で合意されたニューヨーク宣言で言及されていたのも、子どもを取り巻く状況の改善の重要性でした。
宣言では、「子どもの最善の利益に常に主要な考慮を与えつつ、その地位に関わりなく、全ての難民と移民の子どもの人権と基本的自由を保護する」とうたっています。また、具体的な政策課題として、「全ての子どもが、到着から数か月以内に教育を受けることを確実にする」との決意が記されていました(国連広報センターのウェブサイト)。
私は、これを決意に終わらせることなく、難民と移民に関する二つのグローバル・コンパクトで、教育機会の確保を各国が政策に反映することを共に約束した上で、受け入れが少ない国は、受け入れが多い国をさまざまな形で支援する体制を整えるべきではないかと訴えたいのです。
ニューヨーク宣言が強調する通り、教育の機会を得ることは、厳しい状況下にある子どもへの基本的な保護となるだけでなく、若い世代の心に「未来に対する希望」を灯すものになっていくに違いありません。
◇シリアから逃れた水泳選手の言葉
昨年、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使に就任した、シリア出身の水泳選手ユスラ・マルディニさんは語っています(UNHCR駐日事務所のウェブサイト)。
「食べ物によって空腹が満たされ、難民が救われることはあります。しかし、人として生きぬくためには、その心が満たされなければなりません」
彼女は戦場となった母国から逃れ、トルコ経由でギリシャに海路で向かう途中、ボートが故障したため、姉と一緒に海に飛び込み、2人で泳いでボートを数時間押し続けて、同乗していた20人の命を助けました。
その後、たどり着いたドイツで水泳の練習を重ねる中、リオデジャネイロでのオリンピックに難民選手団の一員として出場を果たしたのです。現在は、ドイツで教育を受けながら、2020年の東京オリンピックへの出場を目指し、トレーニングを続けています。
マルディニさんは「難民は過酷な状況を体験した普通の人であり、チャンスさえ得られれば何かを成し遂げることができるというメッセージを今後も広めていきたい」と述べています。
その何よりのチャンスとなるのが教育であると、私は強調したいのです。
また、教育によって灯される「未来に対する希望」が、受け入れ地域の子どもたちの間にも広がり、"共生の心"を力強く育む流れへとつながっていくことを期待してやみません。
この点、ICANのフィン事務局長が語っていた言葉が胸に残りました。
「私は移民が多い地域で育ちました。7歳の時に、突然、学校にバルカン諸国の生徒が大勢入ってきたのを覚えています。全員がたいへんな経験をしていました」
「干ばつを逃れて親がソマリアからやってきたという友だちもいました。彼らと出会い、彼らの話を聞き、それを実際に体験した彼らの親に会ったりすることで、外国の紛争や危機が、ある意味、身近なものになったのです」(NHKのウェブサイト)
このようにフィン事務局長にとって、母国スウェーデンで世界各地から来た難民や移民の子どもたちと接した経験が、その後、地球的な課題に取り組むNGOの活動に身を投じるきっかけになったというのです。
UNHCRでも、各国の教育制度への受け入れの拡大を呼び掛けていますが、子どもたち同士の関係を通し、家族を含めて地域社会での交流を持続的に深めていくことの意義は大きいのではないでしょうか。
また、学校以外にも、難民の子どもたちに学習機会を提供するノンフォーマル教育の場が重要な役割を担っており、SGIとしても、こうした教育への支援の輪を他団体と協力しながら広げていきたいと考えるものです。
◇60歳以上の人口が世界で9億人に
続いて、現代社会の焦眉の課題として高齢者の人権に関する提案を行いたい。
国連によると、現在、60歳以上の人口は世界で9億人に達し、2030年には14億人になると予測されています。先進国を中心に少子高齢化が進む中、社会の急激な構造変化にどう対応するかが、多くの国で課題になっているのです。
昨年7月、国連で行われた「高齢化に関する公開作業部会」でも、このテーマを巡って議論が交わされました。
そこでは、世界人権宣言に「全ての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とにおいて平等である」とあるにもかかわらず、高齢者は生産性が乏しく社会的にも価値が低く、経済や若い世代の負担になるといった否定的な見方などがあるために、人権の享受が年齢とともに厳しくなっているのは明らかだとして、次のような問題提起がされました。
高齢者の排除と差別につながる、こうした構造的な高齢者への差別や偏見をなくすために闘わなければならない——と。
そもそも高齢者の権利保護の重要性は、70年前、世界人権宣言が採択される直前に、アルゼンチンが提出した国連総会の決議で強調されていたものでした。しかし長い間、各国の関心は高まらず、1982年にウィーンで行われた第1回「高齢化世界会議」を機に国際的な議論が進められるようになったのです。
その成果として91年に、「高齢者のための国連原則」として、独立、参加、ケア、自己実現、尊厳、の5項目が定められました。
重要だと思うのは、一人一人の意思を尊重する「独立」をはじめ、健康や生活面での保護を求める「ケア」や、差別や虐待から守る「尊厳」を、高齢者の人権の中核に据えながらも、それだけでは完結していない点です。
以前、ローマクラブ共同会長のエルンスト・U・フォン・ヴァイツゼッカー博士と、高齢者の生きがいについて語り合ったことがあります(『地球革命への挑戦』潮出版社)。
その中で博士は、自らの経験を通しながら、働き続けたいと願う高齢者のために社会環境を整えることは、社会全体にとっても良い結果をもたらすと強調していました。
私も同感であり、仕事に限らず、人々や社会のために何かをすることができたという日々の実感が、喜びと充実感につながるのではないかと述べました。
国連原則の残りの二つの「参加」と「自己実現」は、まさに高齢者の生きがいという面で欠くことのできない要素だと思えてならないのです。
人間の尊厳にとって"周囲から大切にされること"はもとより重要ですが、"自分の存在が他の人々にとって、かけがえのない心の拠り所として受け止められること"を通し、尊厳はその輝きをより増していくのではないでしょうか。
そして、その人間同士のつながりの重みは、病気になったり、介護される身になった時でも、決して変わるものではありません。
自分が今この場所で生きていること自体に、幸せや喜びを感じてくれる人が周囲にいることが、尊厳の源になるのです。
創価学会が3年前から開催してきた「平和の文化と希望展」でも、このテーマに焦点を当ててきました。
ともすれば、老いに対する社会のイメージが否定的になりがちであることを踏まえ、子どもたちや社会のために活躍する高齢者の姿を紹介しながら、高齢者の豊かな体験と知恵が生かされる社会と「平和の文化」の構築を呼び掛ける内容となっています。
◇女性のエンパワーメントで「持続可能な開発目標」を促進
2002年の第2回「高齢化世界会議」で打ち出され、昨年の国連の公開作業部会でも強調されたように、高齢者の人権を守る取り組みは、すべての年齢の人々を大切にし、いかなる差別も許さない人権文化の土壌を育むことにつながるものです。
そこで私は、公開作業部会でも議論された「高齢者人権条約」の制定に向けて交渉を早期に開始することを強く訴えたい。そして、世界で最も高齢化率が高い日本で、第3回「高齢化世界会議」を開催することを提唱したいと思います。
第2回の世界会議で合意された政治宣言と行動計画では、高齢者の経験は思いやりのある社会を築くための財産であり、高齢者は地域での日常的な役割だけでなく、災害などの緊急事態からの復興と再建で積極的な貢献を果たせることが強調されていました。
そのことは、東日本大震災からの復興に取り組む日本でも実感されてきた点であり、国連の会議で3年前に採択された「仙台防災枠組」では、社会の防災力を高めるために高齢者の参加が欠かせないことが明記されたところです。
「高齢者人権条約」の制定にあたっては、国連原則に基づく権利保護を確立するとともに、「エイジング・イン・プレイス」と呼ばれる"高齢者が住み慣れた地域で、生きがいと尊厳をもって生き続けられるために何が必要か"との点に立脚した規定を盛り込むべきではないでしょうか。
◇「多宝」の名称に込められた思い
私どもSGIでも、信仰に基づく活動の根幹として「体験談運動」を通し、さまざまな困難や課題を乗り越えた人生の物語を共有する場を積極的に設けてきました。
体験の重みに裏付けられた、その人でなければ語ることのできない言葉によって、多くの高齢者が、後に続く世代の人たちの心に勇気と希望を灯し続けてきたのです。
私が創価学会の高齢者のグループに「多宝会」という名前を贈ったのは、「高齢者のための国連原則」が採択される3年前(1988年)のことでした。
「多宝」の名称は、釈尊が説いた"万人の尊厳"の思想が真実であることを証明する存在として、法華経に登場する多宝如来に由来するものです。法華経では、世界の宝を集めたような宝塔が出現する場面がありますが、その中から現れるのが多宝如来なのです。
私は、そうした意義を込め、信仰と人生の年輪を重ねてきた大切な同志のグループに、「多宝会」の名前を贈りました。
以来、多宝会のほかに宝寿会や錦宝会が結成され、ドイツでは「ゴールデナー・ヘルプスト」(錦秋会)、オーストラリアでは「ダイヤモンドグループ」などのグループがありますが、高齢者の同志は信仰の面でも社会的な面でも"宝"の存在となっているのです。
人間が生きる上で避けて通れない「生老病死」の悩みを乗り越えてきた信仰の息吹を語ってきたのも、戦争体験や被爆証言などを通してSGIの「平和運動の精神の継承」でかけがえのない役割を担ってきたのも、地域の歴史や人々のつながりを深く知り、「災害からの復興」において励まし合いの輪を支えてきたのも、高齢者の同志でした。
今後もSGIとして体験談運動をはじめ、戦争と災害の教訓を語り継ぐ活動に力を入れるとともに、他のFBO(信仰を基盤にした団体)と協力してシンポジウムなどを開催しながら、高齢者の人権と尊厳を守る社会の潮流を高めていきたいと思います。
◇多くの都市がパリ協定を支援
最後に第三のテーマとして、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを加速させるための提案をしたい。
SDGsでは、貧困や飢餓や教育をはじめ17分野にわたる目標が掲げられていますが、この中で近年、国際協力の枠組みづくりが進んできたのは、気候変動の分野です。
昨年11月、地球温暖化を防止するためのパリ協定に、唯一の未参加国だったシリアが批准しました。
脱退の意向を示しているアメリカの今後の動向が課題として残るものの、世界のすべての国が温室効果ガスの削減に共同して取り組む体制が整ったのです。
近年、異常気象が各地で相次いでいますが、その脅威と無縁であり続けることができる場所は、地球上のどこにもありません。
干ばつと洪水による被害や海面上昇の影響などで住み慣れた場所を追われる「気候変動難民」の数も増加しています。
温暖化に歯止めがかからなければ、最悪の場合、2050年までに10億人が移住を強いられるとの予測もあります。
パリ協定は、そうした深刻な脅威から多くの人々の生活と尊厳を守る命綱となるだけでなく、将来の世代のために持続可能な社会を築く土台となるものです。
発効から4年以内(2020年11月まで)は、どの国も脱退できない仕組みとなっており、アメリカがこのままパリ協定の枠組みにとどまって、各国と共に目標の達成に向けて行動することが強く望まれます。
温暖化の防止はもとより難題ですが、私が大きな希望を感じるのは、各国の自治体の間で意欲的な動きが広がっていることです。
例えば、全米市長会議は「各都市の調達電力を2035年までに全て再生可能エネルギーにする」との決議を行っています。
また、フランスのパリで2030年以降に市内を走行できる自動車を電気自動車に限定する計画があるほか、スウェーデンのストックホルムは2040年までの化石燃料の使用廃止を目指しています。
昨年6月には、世界の140に及ぶ大都市の市長が集まった総会で、国際的な政治状況に左右されることなく、都市がパリ協定の実施に率先して取り組むことを約束するモントリオール宣言が発表されました。
このように、共通のリスクでありながらも、国益がぶつかり合う課題において、多くの自治体が"パリ協定を後押しすることは、自分たちの住む地域を守ることにつながる"との意識を持って、積極的な行動に踏み出しているのです。
自治体同士の経験を共有しようとする動きも始まっており、ヨーロッパでは、ドイツの主導で気候保全をテーマにした都市交流が進められることになりました。
温室効果ガスの排出量が多い北東アジアでも、同様の連携を強めることが急務ではないでしょうか。そこで私は、合計で世界の排出量の約3割を占める日本と中国が連携し、「気候保全のための日中環境自治体ネットワーク」の形成を目指すことを提唱したい。
日本では、環境未来都市と環境モデル都市に指定された自治体を中心に、温暖化防止の対策が積極的に行われてきました。中国でも、太陽光発電の導入量が世界一になるなど、多くの地域で再生可能エネルギーの導入が進んでいます。
ネットワークづくりにあたっては、まず手始めに、国連が3年前に立ち上げた気候中立のイニシアチブ=注5=に、温暖化防止に意欲的に取り組んできた日本と中国の自治体が登録していく方法もあると思います。
すでに東京都と北京市、神戸市と天津市、北九州市と大連市といったように、環境分野での自治体提携の実績もあります。そうした自治体同士の経験の共有や技術協力などを日中両国で積み重ねる中で、自治体協力の輪を他の北東アジア諸国の間にも広げていってはどうでしょうか。
◇大学の提携や青年交流が拡大
今や両国の人的往来は年間で約900万人に達し、自治体の姉妹提携の数も363にのぼります。
私が日中国交正常化の提言をしたのは50年前(1968年9月)でしたが、当時は貿易の継続さえ危ぶまれたほどの険悪な状態で、日中友好を口にするだけでも厳しい批判にさらされただけに隔世の感があります。
1万数千人の学生たちが集まった総会で、私は呼び掛けました。
「国交正常化のためには、それに付随して解決されなければならない問題がたくさんある」「これらは、いずれも複雑で困難な問題であり、日中両国の相互理解と深い信頼、また、何よりも、平和への共通の願望なくしては解決できない問題である」
「国家、民族は、国際社会のなかで、かつてのように利益のみを追求する集団であってはならない。広く国際的視野に立って、平和のため、繁栄のため、文化の発展・進歩のために、進んで貢献していってこそ、新しい世紀の価値ある民族といえるのである」と。
この50年間で、日本にとって中国は最大の貿易国となり、中国にとっても日本はアメリカに次ぐ2番目の貿易国となりました。
日本の大学の間で最大の提携先となっているのも、中国の大学です。
私が創立した創価大学は、国交正常化後の1975年に、中国からの国費留学生を初めて受け入れた日本の大学となりましたが、現在では、両国の大学の交流協定は4400を超えるまで拡大しています。
日中平和友好条約の締結の翌年(79年)からは青年親善交流事業が始まり、若い世代が友好を深める機会が設けられてきました。
創価学会でも、79年に青年部の訪中団を派遣して以来、青年同士の往来が続いており、85年には中華全国青年連合会(全青連)と議定書を結んで交流を定期的に行う中、昨年も11月に青年部の交流団が訪中して友誼の絆を強め合ったところであります。
このように両国の交流は大きく広がり、多くの分野で協力が進んできました。
今年で日中平和友好条約の締結40周年を迎えます。
その佳節を機に、これまで積み上げてきた"両国の関係を深めるための協力"を基盤としながら、「地球益」や「人類益」のための行動の連帯を図る挑戦を、大きく前に進めるべきではないでしょうか。
温暖化防止と持続可能な都市づくりは、いずれもSDGsの重点課題であり、若い世代の情熱と創造力を最大の原動力としながら、北東アジアをはじめ、世界全体のモデルとなる事例を共に積み上げていくことを、強く呼び掛けたい。
◇ジェンダー平等が問題解決に不可欠
結びに、SDGsの推進のために言及しておきたいのは、ジェンダー平等と女性のエンパワーメント(内発的な力の開花)に関する提案です。
このテーマは、SDGsの目標の一つというだけでなく、他のすべての目標を大きく前進させる上で欠かせない"SDGsの基軸"となるものです。
国連でこの課題に取り組むUNウィメンのムランボ=ヌクカ事務局長は、昨年10月、国連安全保障理事会での「女性と平和・安全保障」を巡る討論で、次のように強調していました。
「『女性と平和・安全保障』という議題は、グローバルな政策決定においてその足跡を広げ続けており、今や、地球的な問題を語る上で不可欠な柱となっています」
事実、核兵器禁止条約の前文でも、ジェンダー平等が持続可能な平和にとって不可欠の要素であるとし、核軍縮に女性が関与することの支援と強化が呼び掛けられました。
2000年に国連の安保理で採択された「1325号決議」を機に、紛争解決と平和構築のプロセスへの女性の参加拡大が図られてきましたが、各国の安全保障政策の転換につながる軍縮の分野でも、その重要性が明記されたのです。
こうした問題意識の広がりは、平和の分野だけにとどまりません。
例えば、2015年に合意された「仙台防災枠組」では、女性のエンパワーメントに日頃から取り組むことが、災害に対する社会のレジリエンス(困難を乗り越える力)の強化につながると指摘されています。
また、昨年11月にドイツで行われた気候変動枠組条約締約国会議で「ジェンダー行動計画」がまとめられたように、温暖化防止の面でも女性の役割が鍵を握ることが、国際社会の共通認識になっているのです。
そこで私は、こうした時代変革の波動をあらゆる分野で広げていくために、「女性のエンパワーメントの国際10年」を国連で制定することを提唱したい。
具体的には、安保理の「1325号決議」採択20周年を迎える2020年から国際10年をスタートし、SDGsの達成期限である2030年に向けて、女性のエンパワーメントの推進とともに、SDGsのすべての目標の底上げを期すべきではないでしょうか。
女性のエンパワーメントは"可能であれば考慮する"といったオプション的なものであってはならず、課題に直面する人々が切実に必要としているものに他なりません。
UNウィメンがヨルダンの難民キャンプで実施した支援で、衣類の仕立ての仕事を始めたシリア難民の女性はこう述べています。
「無力感を感じることが少なくなりました。仕事をすることで、自分たちに価値を見出し、エンパワーされると感じます」(UN Women日本事務所のウェブサイト)
また、タンザニアの難民キャンプに逃れたブルンジの女性は、「何もすることがないキャンプでは、先の見えない将来への不安で頭がいっぱいになります」と沈んでいたものの、起業トレーニングへの参加をきっかけに気持ちが上向きになりました。いつかブルンジに戻り、得意のパン作りの技術で生計を立て、子どもたちを再び学校に送りたいとの夢を語るまでになったのです(UNHCR駐日事務所のウェブサイト)。
このように女性のエンパワーメントは、どれだけ厳しい状況に置かれていても、「生きる希望」を取り戻しながら前に進むための原動力となるものです。
◇誰も置き去りにしない世界を!
私どもSGIも、"万人の尊厳"を掲げる仏法の思想に基づき、女性のエンパワーメントの裾野を広げる活動を続けてきました。
国連の「女性の地位委員会」の取り組みを市民社会の側から支援し、国連本部での会合に代表が参加するとともに、2011年からは、他団体と協力して会合の並行行事を継続的に開催しています。
また、国連人権理事会の会期に合わせて、女性の権利を守るための信仰と文化の役割や、男女平等のためのノンフォーマル教育をテーマにした関連行事を行ってきました。
昨年3月の「女性の地位委員会」では、ジェンダー平等と宗教に関する世界的なプラットフォームが立ち上げられました。
その目的は、それぞれの信仰に基づく言説を展開する中で、女性の人権や貢献に対する社会の認識を改善する流れをつくり出し、地域をはじめ、国や国際レベルでのジェンダー平等に関する政策や法律の整備などの規範づくりに影響を与えていくことにあります。
SGIとしても、このプラットフォームの活動に積極的に参加し、他のFBOと力を合わせながら、困難に直面する女性たちの生きる力の源となり、地球的な課題の解決を前に進めるためのアリアドネの糸=注6=を、共に紡ぎ出していきたい。
そして、市民社会の声を結集し、「女性のエンパワーメントの国際10年」の制定に向けた機運を高めていきたいと思います。
SDGsが掲げる「誰も置き去りにしない」とのビジョンは、世界の半分を占める女性たちの人権を守り、希望と尊厳をもって生きられる社会を築く挑戦の中で、力強く躍動していくに違いありません。
この2030年に向けた挑戦を展望する時、かつてローザ・パークスさんが、心の支えにしてきたものとして紹介してくださった言葉が思い浮かんできます。
「"人間は苦しみに甘んじなければならない"という法律はないんだよ」との、パークスさんの母君の言葉です。
パークスさんの母君も差別と戦い続けた女性でしたが、この切実な思いこそ、ジェンダー平等を基軸にSDGsの取り組みを前進させるために、あらゆる差異を超えて皆で共有すべき精神ではないでしょうか。
今後もSGIは、一人一人の生命と尊厳を守ることを基盤に、地球的な課題を乗り越えるための民衆の連帯を大河のように広げていきたいと思います。