「後継」と「後続」は違う。
創価後継の証しとは
ただ後に続くのではなく
道なき道を開くことだ。
青年ならば先駆者たれ!
新池殿御消息 P1436
『況や法華経の行者を供養せん功徳は無量無辺の仏を供養し進らする功徳にも勝れて候なり』
【通解】
ましてや法華経の行者を供養された功徳は、無量無辺の仏を供養される功徳よりも勝れているのである。
〈寸鉄〉 2019年2月5日
平和貢献のSGIは「対話の宗教」—識者。友情を結ぶ語らいに今日も全力
青春に失敗という言葉はない—作家。全て成長の糧に。決意即行動で走れ
インフルエンザの患者数が最多。いまだ油断禁物だ。マスク・手洗い等徹底
交流サイト、見知らぬ人からの友達申請に注意。詐欺や悪徳業者が増加と
公明が若者の声聞く「政策アンケート」。声を形にする実現力で勝負せよ!
☆第44回「SGIの日」記念提言(下) 「平和と軍縮の新しき世紀を」 2019年1月27日
◇有志国によるグループを結成し核兵器禁止条約の参加を拡大
◇日本は批准に向けた努力と対話の場を確保する貢献を
続いて、平和と軍縮を巡る喫緊の課題を解決するための具体策と、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の取り組みを前進させるための方策について、5項目の提案を行いたい。
第一の提案は、核兵器禁止条約の早期発効と参加国の拡大に関するものです。
核兵器禁止条約が採択されて以来、これまで国連加盟国の3分の1以上にあたる70カ国が署名し、20カ国が批准を終えました。
条約の発効要件である50カ国の批准には、まだ及んではいませんが、化学兵器や生物兵器の禁止条約の場合と比べても、批准国の拡大は着実に進みつつあるといえます。
加えて注目すべきは、条約にまだ参加していない国も含めて世界の8割近くの国々が、条約の禁止事項に沿った安全保障政策を実施しているという事実です。
ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の国際運営団体の一つである「ノルウェー・ピープルズエイド」によると、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵から、移譲と受領、使用とその威嚇、違反行為を援助することや援助を受けること、配備とその許可について、すでに155カ国が禁止状態にあるといいます。
つまり、世界の圧倒的多数の国が「核兵器に依存しない安全保障」の道を歩むことで、すでに核兵器禁止条約の中核的な規範を受け入れている状況がみられるのです。この基盤の上に、条約の発効と参加国の拡大を通じて、核兵器禁止に関する規範の普遍化を図ることが待たれます。
その一方で、核兵器禁止条約の採択によって、核問題に関する国際的な枠組みを提供してきた核拡散防止条約(NPT)の協力体制に、深い溝が生じかねないとの声も聞かれます。
しかし実際には、二つの条約が目指すゴールは同じであって、核兵器禁止条約はNPTを決して損ねるものではなく、むしろ、NPT第6条が定める「核軍縮交渉の誠実な履行」の義務に新たな息吹を注ぎ込む意義を有している点に、目を向けるべきではないでしょうか。
◇唯一の戦争被爆国が果たすべき使命
そこで私は、核兵器禁止条約の採択に至るプロセスの中で積み上げられてきた議論を、今後も深化させながら、各国の条約参加の機運を高めていくための有志国のグループを結成することを提案したい。
具体的には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効促進のために活動してきた「CTBTフレンズ」と呼ばれるグループにならう形で、「核兵器禁止条約フレンズ」を結成してはどうでしょうか。
CTBTフレンズは、日本とオーストラリアとオランダが2002年に発足させたもので、2年ごとに外相会合を開催し、昨年の第9回会合には約70カ国が参加しました。
特筆すべきは、これまで外相会合に参加した国が核保有国と核依存国と非保有国のすべてにわたっており、署名・批准の有無に関係なく多くの国が討議に加わってきた点です。
この討議が重ねられる中、外相会合への参加後に条約の批准を果たした国もみられます。また、批准後に外相会合に参加して、他の発効要件国に対し、条約への参加を呼び掛ける国も現れています。
このほか、未批准国のアメリカからケリー国務長官(当時)やペリー元国防長官が、外相会合に参加したこともありました。
その際、ペリー氏から、1970年代に"ソ連がICBM(大陸間弾道弾)を発射した"との誤情報に惑わされた時の体験が語られるなど、核兵器を巡る教訓が共有される場ともなってきたのです。
こうした経験を生かす形で、核兵器禁止条約においても同様のグループを結成し、条約に対する立場の違いを超えて、対話を継続的に行う場にしていくべきではないでしょうか。
そして、そのグループの活動に日本が加わり、貢献していくことを強く呼び掛けたい。
私は、唯一の戦争被爆国である日本が、核兵器禁止条約を支持し、批准を目指すべきであると訴え続けてきました。
CTBTフレンズの中核を担ってきた日本が、まずは「核兵器禁止条約フレンズ」の結成に協力した上で、自国の条約参加に向けた課題の克服に努めるとともに、他の核依存国にも対話への参加を働きかけることを提案したいのです。
核兵器禁止条約では、発効から1年以内に最初の締約国会合を開催することが定められていますが、私はこの会合に先立つ形で、「核兵器禁止条約フレンズ」を結成するのが望ましいと考えます。
締約国会合を開催する前の段階から、すべての国に開かれた対話の場を設けておくことが、条約を巡る意見の違いの溝を埋めていく上で大きな意味を持つと思うからです。
核保有国と非保有国との"橋渡し役"を目指してきた日本は、その対話の場の確保に尽力すべきではないでしょうか。
◇ICANによる新しい取り組み
核兵器禁止条約の交渉が進む最中に日本が立ち上げを表明し、これまで会合を重ねてきた「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の提言では、核保有国、核依存国、非保有国の識者による議論を踏まえ、次のような共通認識が示されていました。
「核軍縮をめぐる停滞はとても擁護できるものではない」「国際社会は、立場の違いを狭め、また究極的には無くすため、直ちに行動しなければならない。すべての関係者は、たとえ異なる見方を持っていたとしても、核の危険を減らすために協働することができる」と。
日本がこの共通認識を土台に、核兵器禁止条約の第1回締約国会合のホスト国になることを表明したオーストリアなどの国々に協力し、「核兵器禁止条約フレンズ」の活動を後押しすることを呼び掛けたい。
このグループが、核兵器禁止条約の採択に尽力した赤十字国際委員会やICAN、平和首長会議をはじめとする諸団体と連携しながら、核保有国と非保有国との対話の機会を積極的に設けることが望ましいのではないでしょうか。
市民社会の間でも、核兵器禁止条約の基盤を強化するための新しい取り組みがスタートしています。
昨年11月から始まった「ICANシティーズ・アピール」の活動です。
すでに核保有国の間ではアメリカとイギリスの都市が、また核依存国の間ではカナダ、オーストラリア、スペインの都市が「ICANシティーズ・アピール」に参加しています。
ICANはこの活動で、核兵器禁止条約を支持する各国の自治体の連帯を広げることを目指す一方、市民の一人一人が主体となった行動を呼び掛けています。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用して、「#ICANSave」というハッシュタグを合言葉にしながら、"私たちの都市や町の住民は核兵器の脅威がない世界に住む権利を持つ"との思いを込めたメッセージを発信する取り組みです。
また、世界163カ国の7701都市が加盟する平和首長会議でも、すべての国に核兵器禁止条約の早期締結を呼び掛ける活動が行われています。
私は昨年の提言で、条約を支持する自治体の所在地を示す世界地図を作成することを提案しながら、こう訴えました。
「"私たち世界の民衆は、非道な核攻撃の応酬が引き起こされかねない状況を黙って甘受することはできない"とのグローバルな民意の重さを明確な形で示すことで、世界全体を非核の方向に向けていく挑戦を進めたい」
SGIでは、核兵器禁止条約の制定を目指して2017年まで進めた「核兵器廃絶への民衆行動の10年」に続いて、昨年から「民衆行動の10年」の第2期の活動を開始しました。
その主眼は、核兵器禁止条約への支持を広げて「核兵器のない世界」への軌道を確かなものにすることにあり、今後も他の団体と協力しながら、条約に対するグローバルな支持の拡大を力強く後押ししていきたいと思います。
◇第6条の誓約が盛り込まれた経緯
次に第二の提案として、核軍縮の大幅な前進を図るための方策について述べたい。
核兵器禁止条約に先駆ける形で制定され、全面的な核軍縮の交渉義務を定めたNPTが発効してから、来年で50周年を迎えます。
今や191カ国が参加し、軍縮に関する国際法の中で最も普遍的といわれるNPTですが、歴史を振り返れば、条約の交渉が始まった時には、非保有国の条約への参加は、ごくわずかなものに終わってしまう恐れがありました。
1962年のキューバ危機で核戦争の恐怖を痛感した米ソ両国は、当時、5カ国に広がった核拡散に歯止めをかけるため、NPTの草案を提出したものの、核軍縮に関する規定が入っていなかったからです。
その後、交渉の過程で、非保有国の主張を踏まえる形で、核保有国が完全な核軍縮に向けて誠実に交渉するという第6条の誓約が盛り込まれることになりました。つまり、核拡散への強い危機感を抱いていた核保有国に対し、非保有国が核軍縮の誓約を信頼して歩み寄る中で、NPTの体制をスタートさせることができたのです。
以来、半世紀が経ち、冷戦時代のピーク時に比べて核兵器の数は減少してきたとはいえ、いまだ世界には1万4465発の核兵器が存在するといわれます。
しかも、これまで核軍縮の条約が結ばれてきたのはアメリカとロシアの2国間のみで、多国間の枠組みを通じて廃棄された核兵器は一つもないのが現状です。
また、保有数ではなく性能の面からいえば、核兵器の近代化が進み、むしろ軍拡傾向が強まっていると言わざるを得ません。
この点、「平和不在」の病理の問題を考察していた物理学者のヴァイツゼッカー博士が、NPTの交渉が本格化する直前(67年7月)に、未来を見据えた懸念を述べていたことが思い起こされます。
「この種のあらゆる協定は、まだなんらかの不十分さを持っています。それらは、うまくいくばあいには、新たな危険源の発生を妨げ、共同作業の訓練として有効です。しかしそれらは、現存の軍備を撤廃しないで、個別に見るばあい、その中に横たわっているすべての未解決の問題とともに、現状を固定してしまいます」(『心の病としての平和不在』遠山義孝訳、南雲堂)
確かに、キューバ危機の後にケネディ大統領が恐れていた、核保有国が25カ国にまで増えるといった最悪の事態は、NPTの存在によって防ぐことができたといえましょう。
しかし核軍縮の面から総括してみれば、ヴァイツゼッカー博士が懸念していた通り、未解決の問題を抱えたままで現状を固定する傾向があったことは否めないのではないでしょうか。
冷戦終結後の95年にNPTの無期限延長が決まった際、その鍵を握ったのも、第6条の誓約だったことを想起する必要があります。
◇核兵器の削減方針を定める第4回軍縮特別総会を開催
この時の文書には、「NPTに規定される核軍縮に関する約束は、断固として履行されるべきである」と明記されており、無条件での延長を意味するものではなかったのです。
そうであればこそ、その後の2000年から15年までの4回にわたる再検討会議でも、第6条の履行を求める声が各国から繰り返し訴えられてきたのだといえましょう。
発効50周年の意義を持つ来年の再検討会議では、長年の停滞を破るためにNPT制定の原点に立ち返り、第6条の誓約に焦点を当てた討議を行うことが求められます。
その意味で私が着目したのは、昨年の準備委員会で北欧5カ国が出した声明です。
そこでは、中距離核戦力(INF)全廃条約を巡るアメリカとロシアの対立を念頭に置きつつ、「我々は力を合わせてNPTの妥当性を維持・強化し、その弱体化につながるいかなる措置も慎まねばならない」と述べ、"何が各国を結び付けているのか"に焦点を当てる必要があるとの主張がなされました。
また、2010年の再検討会議で共通認識として示された、「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結果への深い懸念」に目を向けることを訴えていたのです。
フィンランドとスウェーデンのほか、北大西洋条約機構(NATO)に属するデンマーク、ノルウェー、アイスランドという核依存国が加わった声明で、こうした呼び掛けがされた意味は大きいと思います。
このNATOの加盟国が集まり、昨年10月に開催された大量破壊兵器の軍縮に関する年次会合で、国連の中満泉・軍縮担当上級代表が一つの提案をしました。
来年のNPT再検討会議の冒頭に、閣僚会合を行って政治宣言の採択を目指すことを、可能性のある選択肢として考慮に入れてもよいのではないかとの提案です。
この提案に、私も全面的に賛同します。
閣僚会合での宣言を通し、"NPTの何が各国を結び付けているのか"を改めて明確に示すことが大切だと思うからです。
NPTの前文には、核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払うことと、「核兵器の製造を停止し、貯蔵されたすべての核兵器を廃棄し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去する」ために各国間の信頼を強化する重要性が記されています。
閣僚会合で、この前文の精神と、「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結果への深い懸念」を再確認した上で、発効50周年を踏まえた宣言として、核軍縮を本格的に前に進める誓いを表明すべきではないでしょうか。
◇核抑止がもたらす本質的な危うさ
その上で私は、核軍縮への方向転換を明確に示すものとして、来年に行われるNPT再検討会議の最終文書において、「核兵器の役割低減」の具体的措置を討議する国連公開作業部会の設置勧告を盛り込むことを呼び掛けたい。
広島と長崎への原爆投下以降、73年にわたって「核兵器の不使用」という状況が続いてきたことに加え、近年は核保有国やNATOの間でも、核兵器の軍事的有用性が低下してきたことを認めるようになってきました。
冷戦終結前から叫ばれてきたように"核戦争に勝者はない"ことは明白であり、軍事的有用性の低下への認識も広がる中で、核兵器に安全保障を依存し続けなければならない理由は、どこにあるのでしょうか。
かつてヴァイツゼッカー博士が、「原爆を決して使う必要がないように願いながら、威嚇のために所有すること」は「絶壁の上でダンスをするようなもの」(前掲『心の病としての平和不在』)と警告していましたが、今もその状態は続いています。
他国に強い敵意を抱いていなくても、核兵器を即時に発射できる態勢を維持する限り、偶発的な事故に対する懸念は消えることはなく、その不安定さを常に強いるところに、核抑止の本質的な危うさがあると思えてなりません。
私は前半で、法華経の「三車火宅の譬え」に言及しましたが、各国の安全保障政策から"核抑止の本質的な危うさ"という炎を消していく道を、今こそ共に選び取るべき時を迎えているのではないでしょうか。
すべての核保有国が、まずは「安全保障における核兵器の役割低減」に取り組むことが重要になると訴えたいのです。
この役割低減において、最も緊急性が高い一方で、準備にさほど時間を要しないのが「高度警戒態勢」の解除です。
核兵器を常に発射できる状態に置く「高度警戒態勢」の解除は、先例がないわけではありません。冷戦を共に終結させたアメリカのブッシュ大統領とソ連のゴルバチョフ大統領が、1991年に相次いで行ったことがあるからです。
ブッシュ大統領は、すべての爆撃機と450基の大陸間弾道弾(ミニットマン�)、また原子力潜水艦10隻の搭載ミサイルの警戒態勢解除を指示しました。
これに続いてゴルバチョフ大統領も、500基の地上発射ミサイルと、6隻の原子力潜水艦を実戦配備から外しました。
こうした一連の措置を準備するのにかかったのは、わずか数日にすぎなかったといいます。
その先例が物語っているように、核保有国の政治的決断さえあれば、取り組みを開始できるのが「高度警戒態勢」の解除であり、これを段階的に進めるための討議を、核依存国や非保有国を交えた国連公開作業部会で行うべきではないでしょうか。
冷戦時代とは異なり、他国からの核攻撃という事態の現実味が薄れてきた今日において、多くの国の間で最も憂慮されているのは、偶発的な原因や人為的なエラーによる核爆発の事故に他なりません。
国連総会で先月採択された「高度警戒態勢」の解除を求める決議には、175カ国が賛成しています。
その幅広い支持を基盤に、「高度警戒態勢」の解除に踏み出すことは、核保有国にとっても意義は大きいと思うのです。
◇熱意と歩み寄りが合意形成に不可欠
こうしたリスクの低減は「水平的軍縮」と呼ばれるものですが、それに加えて、核兵器の保有数を実際に削減していく「垂直的軍縮」を進めることが、NPT第6条の義務に照らして不可欠の取り組みとなってきます。
そこで私は、来年のNPT再検討会議を受ける形で、国連の第4回軍縮特別総会を2021年に開催することを提案したい。
第4回軍縮特別総会で、多国間の核軍縮交渉の義務を再確認し、核兵器の大幅な削減と核兵器の近代化の凍結を含めた基本方針について定めた上で、2025年のNPT再検討会議に向けて多国間の核軍縮交渉を開始していくことを、呼び掛けたいのです。
もちろん、軍縮の合意は決して容易なものではないでしょう。第1回軍縮特別総会が1978年に行われた時も、多くの国が核軍縮を求める中、交渉の難航が続きました。
合意案を起草しても各国から意見が相次ぎ、異論のある箇所が多くの"括弧"で囲まれる状況で、それを解消できない限り、コンセンサスづくりは暗礁に乗り上げ、決議が見送られる恐れがあったのです。
そこで急遽、交渉の総責任者に指名されたメキシコのアルフォンソ・ガルシア・ロブレス元外相は、各国の代表に次のように呼び掛けました。
「昨日、新たな括弧が安易に加えられたが、このようなことはしないと紳士協定をしてほしい。まるで、機織りをするペネロペが織物を途中でほどいては織り直すギリシャ神話のようではないか」(木下郁夫『賢者ガルシアロブレス伝』社会評論社)と。
後にノーベル平和賞を受賞したガルシア・ロブレス元外相のこうした尽力が実り、最終的にはすべての"括弧"が解消された形で、最終文書が全会一致で採択されたのでした。
この最終文書は現在でも軍縮問題を討議する際の基礎になっていますが、第4回軍縮特別総会でも各国が熱意と歩み寄りをもって、核兵器をはじめとする多くの兵器の軍縮に関する合意を導くべきであると、私は呼び掛けたいのです。
また、第4回軍縮特別総会を行う際には、市民社会の代表による発言の場を十分に確保することを求めたいと思います。
国連総会で市民社会の代表の発言が初めて実現したのも、第1回軍縮特別総会でした。25に及ぶNGOと六つの研究機関の代表が、議場で発言したのです。
私自身、第1回軍縮特別総会に寄せて提言を発表したほか、第2回軍縮特別総会(82年)と第3回軍縮特別総会(88年)の時にも提言を行いました。
またSGIとして、第2回軍縮特別総会の際に"核の脅威展"を国連本部で開催しました。
広島と長崎での原爆被害の実態などを紹介した展示は反響を呼び、この特別総会での「世界軍縮キャンペーン」の採択を後押しするものともなりました。
以来、SGIでは、軍縮教育の推進にも力を入れてきましたが、第4回軍縮特別総会が行われる際にも、軍縮教育に関するシンポジウムなどを開催して、「核兵器のない世界」の建設を前に進めるために、市民社会からの発信に努めていきたいと思います。
◇安全保障環境を一変させる危険性
第三の提案は、AI兵器やロボット兵器と呼ばれる「自律型致死兵器システム(LAWS)」を全面禁止する条約の制定です。
LAWSはいくつかの国で開発されている段階で、実戦配備には至っていません。
しかし、戦闘行為を自動化する兵器を導入する国がひとたび現れれば、核兵器の誕生にも匹敵するような世界の安全保障環境を一変させる事態になりかねないとの懸念が、国際社会の間で広がっています。
人間が戦闘に直接介さないことで軍事行動への垣根が格段に低くなり、国際人道法の精神が著しく損なわれる恐れもあるからです。
加えて、国連の「軍縮アジェンダ」の中で指摘されていた、LAWS特有の問題に目を向ける必要があります。
第2次世界大戦時に無人の攻撃機として使用された「V1ロケット」から、今も埋設されたままの地域が残る「対人地雷」まで、人間の操作を必要としない多くの兵器が開発され、使用されてきたものの、LAWSにはそれらの兵器とはまったく異なる危険性があるとして、次の問題が指摘されていたのです。
それは、AIに操作を依存するがゆえに、「予期しない行動や説明できない行動を起こす可能性」を常に抱えているという点です。
◇国連の特別代表を任命し水資源を守る体制を強化
私も以前、平和学者のケビン・クレメンツ博士との対談で、LAWSの規制を巡る非公式の専門家会合が2014年に国連で初開催されたことを受け、LAWSの危険性について語り合ったことがあります(『平和の世紀へ 民衆の挑戦』潮出版社)。
その際、私は、良心の呵責も逡巡も生じることなく自動的に攻撃を続けるロボット兵器には、人道的観点からも極めて重大な問題があることを訴えました。
その上で、惨事が引き起こされる前に、あらかじめ全面規制を図ることが急務であり、開発と配備を禁止する枠組みづくりを早急に進めるべきであると呼び掛けたのです。
クレメンツ博士も、NGOが進める「ストップ・キラーロボット」=注4=のキャンペーンに触れて、こう述べていました。
「こうした市民社会による運動や国連事務局、そして各国の外交関係者などの広範なアクター(行動主体)が積極的に連携を強めていくことが、この問題解決の大きなカギとなります」と。
◇国連に提出したSGIの声明
昨年4月に行われた政府専門家会合では、「兵器の使用に人間の判断が介在すること」の必要性を大多数の国が認めたほか、26カ国がLAWSの全面禁止を求めました。
私は、国連の「軍縮アジェンダ」における警告と、政府専門家会合で示された各国の懸念を基盤に、「LAWS禁止条約」の交渉会議を早期に立ち上げることを強く求めたい。
日本も昨年2月に、人間が関与しない完全自律型の兵器の開発を行う意思はないとの方針を示しています。また欧州議会が、国際規制の枠組みづくりの交渉を早急に開始することを呼び掛ける決議を9月に採択しました。
市民社会の間でも、「ストップ・キラーロボット」の活動に参加するNGOが、51カ国の89団体にまで広がっています。
SGIも昨年10月、国連総会第1委員会に代表が出席した際、二つの声明を同委員会に提出しました。
一つは、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教などの信仰を基盤にした14の団体と個人の連名で出した「宗教コミュニティーによる共同声明」で、核兵器禁止条約の重要性とともに、LAWSを禁止するための多国間の議論を呼び掛けたものです。
そしてもう一つがSGIとしての独自の声明で、LAWSが深刻な軍事的脅威をもたらすだけでなく、「生命の権利」と「人間の自律と責任と尊厳に関する原則」を著しく脅かす存在に他ならないことを警告したものです。
もし、LAWSが規制されないまま、実際に使用される事態が起きた時、紛争の性格は根源から変わってしまうに違いありません。
そこでは、すでにドローン兵器の場合にみられるような、攻撃をする側と攻撃される側の人間が同じ空間にいないという"物理的な断絶性"に加えて、実際の戦闘行為が攻撃を意図した人間と完全に切り離されるという"倫理的な断絶性"が生じるからです。
◇ヴァイツゼッカー大統領の戦争体験
軍事的脅威の深刻さもさることながら、この"倫理的な断絶性"が何を意味するのかを考える時、私の胸に浮かんでくるのは、統一ドイツのリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー初代大統領が自身の体験として紹介していた話です。
物理学者のヴァイツゼッカー博士の弟君でもある大統領とお会いしたのは、ドイツの統一から8カ月後(1991年6月)のことでした。
その際、戦時中に日本とドイツが経験した「閉じた社会」の危険性について語り合いましたが、大統領は回想録で次のような体験を紹介していました(『ヴァイツゼッカー回想録』永井清彦訳、岩波書店を引用・参照)。
——大統領は、西ドイツの議員を務めていた時期(73年)にソ連を初訪問し、レニングラード(現サンクトペテルブルク)にある墓地に足を運んだ。
そこは、第2次世界大戦中にドイツ軍による包囲戦で亡くなった大勢の人々が眠る場所だった。
その夜、会食会に出席した大統領は、あいさつに立った時、ソ連の人々の前で告白を始めた。
実は自分も、あの時の包囲戦に参加していたドイツ兵の一人であった、と。
思いもよらない言葉に、場内が沈黙に包まれる中、大統領は言葉を続けた。
「われわれはすべての前線、とりわけレニングラード市内における苦しみを充分承知していました。われわれ自身が体験したことを、子孫が決して繰り返してはなりません。われわれはそのために応分の責任を果たすべく、今ここにいるのです」
その率直な言葉に触れ、最初は沈黙していたソ連の人々も次第に心を開き、温かささえ感じる雰囲気に変わっていった——と。
翻って今後、紛争地域でLAWSが実際に使用された場合に、かつての敵同士のこうした対面は果たして成立するでしょうか。
自身が関わった行為に対する"深い悔恨"と、戦争に対する"やりきれない思い"、そして、次の世代のために平和な関係を築き直したいと切実に願う"一人の人間としての決意"が入る余地は、そこにあるでしょうか。
私も、大統領がソ連を初訪問した翌年(74年9月)に、そのレニングラードの墓地を訪れて献花し、平和の誓いを込めた祈りを捧げたことがあります。
ソ連滞在の最終日にコスイギン首相とお会いし、墓地に献花したことを伝えた時、首相は当時の包囲戦の苦しみを思い返すかのように、「あの時、私もレニングラードにいました」との言葉を発したきり、しばし沈黙されました。
しかしその瞬間から、コスイギン首相との胸襟を開いた対話が大きく進んだのです。世界が直面する課題に取り組むには、戦争という考えをまず捨てる必要がある——その思いを率直に語られた時のコスイギン首相の真摯な表情は、今も忘れることができません。
それだけに、ヴァイツゼッカー大統領とソ連の人々との心の交流が、どれほど得がたいものだったかを強く感じます。
ヴァイツゼッカー大統領はまた、戦時中の鮮烈な思い出をこう記していました(前掲『ヴァイツゼッカー回想録』)。
「戦線の両側では、自分の命を気遣い、したがって互いにとてもよく似た心配をしている人間同士が対峙していた」
「ある夜、長い列を組んで音もなく行進していた時のことだが、突然もう一つのきわめて静かな隊列が向こうからやってきた。互いの姿は見えなかったが、それでもこれがロシア人だということはすぐに分かった。双方の側とも冷静さを失わないことがなにより必要だった。われわれは沈黙のまま、互いに無傷でやり過ごした。殺し合うべきだったのだろうが、むしろ抱き合いたいくらいだった」
AIが制御する兵器において、敵味方に分かれた相手に対する複雑な思いや、「冷静さ」という言葉に込められた人間性の重みを感じて、一時的であれ、戦闘行為を踏みとどまることはあり得るのでしょうか。
もちろん、LAWSの規制においては、国際人道法の法的な観点——すなわち、「文民保護の原則」をはじめ、戦闘員であっても不必要な苦痛を与えることを禁じた「不必要な苦痛禁止の原則」、人道法の適用上の問題がないかを確認する「新しい兵器の検証義務」など——に照らした論議も重要でありましょう。
しかしその上で、ヴァイツゼッカー大統領の述懐が浮かび上がらせていたような、LAWSに潜む"倫理的な断絶性"に目を向けることを忘れてはならないと訴えたいのです。
このように核兵器とは別の意味で、攻撃される側の国にとっても、攻撃する側の国にとっても取り返しのつかない結果を招くのが、LAWSに他なりません。
LAWSの禁止を求める国々と、日本のように開発をしない意思表明をする国々が、「ストップ・キラーロボット」の活動に参加するNGOと協力して、LAWSの開発と使用を含めて全面禁止する条約の制定を、早急に目指すべきではないでしょうか。
◇世界人口の4割が水の不足に直面
続いて第四の提案として述べたいのは、国連のSDGsに関するもので、水資源の保護について具体的な提案を行いたい。
国連のSDGsでは目標の一つとして、すべての人々が安全で安価な水を飲むことができることを掲げています。しかし現在、21億人が安全な水を得ることができずにいるほか、世界の4割の人々が水不足の影響を受けています。
人口増加や経済成長、人々の消費行動の変化により、水の需要は全体的に増える一方で、アジア、アフリカ、中南米の河川では排水による水質の悪化がみられます。また、気候変動によって水循環に影響が生じ、雨が多い地域でさらに雨量が増え、乾燥地はますます乾燥するという現象も起きています。
こうしたグローバルな水危機を乗り越えるために、国連では昨年3月、国際行動の10年「持続可能な開発のための水」(通称「水の国際行動の10年」=注5=)を開始しました。
ニューヨークの国連本部での開幕式で、国連総会のマフムード・サイカル副議長が述べた言葉は、世界的な水不足の影響が不平等なものになっている状況を浮き彫りにしていました。
「この建物の中では、喉が渇いたままでいたり、口にする水で自分が病気になるかどうかを心配する人は誰もいないでしょう。そんな基本的なニーズを満たすために、誰も自分の尊厳や安全を危険にさらすことはない。これが私たちの現実です。しかし、世界中の多くの人々にとっては話が別なのです」と。
実際、身近な場所に安全な水を得る環境がないために、6億人以上の人々が整備されていない井戸をはじめ、池や川、湖などから水を汲んで利用する生活を送っています。
そのため、多くの女性や子どもたちが、長時間、重さに耐えながら水を運ぶことを強いられています。
また、不衛生な水のために病気になることも少なくなく、毎年、大勢の子どもたちが命を落としているのです。
その意味で、安全な水の確保は貧困や格差の問題にとどまるものではない。健康上の不安や水運びの負担を日々感じることなく、尊厳をもって生きるという「基本的な人権」に深く関わる問題に他なりません。
生活用水の不足に悩むことなく、安全な水を飲むことのできるありがたさは、突然の災害に見舞われた時に、先進国の人々の間でも強く実感されてきたことではないでしょうか。
水に関する権利は、女子差別撤廃条約や子どもの権利条約などで明記されたほか、2010年の国連総会決議で「生命及びすべての人権の完全な享受のために不可欠な人権」と位置付けられ、国連人権理事会の決議でも重要性が確認されてきたものです。
そこで私は、SDGsの主要な目標であり、人間の生命と生活と尊厳を守る基盤となる安全な水の確保をグローバルな規模で図るために、国連に「水資源担当の特別代表」のポストを設けることを提案したい。
◇SDGsの達成を目指し世界の大学が協力を促進
国連には現在、水問題に特化した専門機関はありませんが、UNウオーターという、水問題に関連する30以上の国際機関から構成されるグループがあります。
私は、国連事務総長によって新たに任命された水資源担当の特別代表が、UNウオーターに属する諸機関と力を合わせながら、成功事例の共有をはじめ、技術移転に関するパートナーシップの構築を各国に働きかけていってはどうかと考えるのです。
その具体策の一つとして、水資源担当の特別代表を中心に、「水の国際行動の10年に関する国連会合」を定期的に開催することを、併せて呼び掛けたい。
国連と世界銀行が招集した11カ国の首脳らによる「水に関するハイレベル・パネル」の報告書でも、こうした会議を毎年もしくは隔年で行うことを提唱していました。国連会合の定期開催を通じて、私が前半で論じたような「人間中心の多国間主義」のアプローチを、水資源の分野において定着させることが強く望まれると思うのです。
国連のグテーレス事務総長も、自らがポルトガルの首相を務めた時期に成立したスペインとの水管理の条約をはじめ、インドとパキスタン、ボリビアとペルーの事例を挙げながら、水が「紛争ではなく、協力を促す存在」となってきたことを強調していました。
世界には、286にのぼる国境を接する河川と湖沼流域があるほか、国境をまたぐ帯水層も592を数えます。こうした中、3割近くの越境河川で、流域に面する国々が共同で水資源を管理する枠組みがつくられてきました。
残りの越境河川でも、特別代表とUNウオーターの諸機関が支援する形で同様の枠組みづくりを進め、水の安定的な供給と水質の保護を図るべきではないでしょうか。
◇中東やアフリカで水の再利用を図る
水問題に関してもう一つ提案したいのは、淡水資源が将来的に不足する懸念を踏まえ、「水の再利用」や「海水の淡水化」などの分野で、水問題に関する豊かな経験と技術を持つ日本などの国々が積極的に貢献を果たしていくことです。
日本はこれまで水分野での国際協力として、インフラの整備や人材育成など、多くの国にハードとソフトの両面から包括的な支援を行い、近年は、水と衛生の分野での世界トップの援助国となってきました。
また日本には、水資源の分野における技術交流を、韓国や中国との間で長年にわたって続けてきた実績があります。韓国とは1978年から協力会議を開催し、中国とも85年から交流会議を重ねてきました。
昨年には、日中韓水担当大臣会合も行われ、3カ国が経験の共有などを図り、水問題に関するSDGsの目標の達成に向けて協力することを約し合いました。
私は、日本がこうした実績を基盤に、北東アジアにおける水問題の改善と地域の信頼醸成に努めるとともに、韓国や中国とも連携する形で、「水の再利用」や「海水の淡水化」のニーズが高い中東諸国やアフリカ諸国への支援を進めることを提案したいのです。
今年の8月には、第7回アフリカ開発会議=注6=が横浜で開催されます。
6年前に行われた第5回会議では、アフリカの約1000万人が安全な水を飲むことができるようにするための支援の継続や、1750人の水道技術者の人材育成を支援することなどが打ち出されました。
今回の会議で、日本がその取り組みの強化と併せて、「水の再利用」や「海水の淡水化」をアフリカ諸国で推進するための基本計画をまとめることを、私は呼び掛けたい。
日本は安全な水に恵まれた国である一方、昨年の世界リスク報告書によると、災害へのさらされやすさが世界で5番目に高いと指摘されています。
災害時に切実に必要とされるのが安全な水であり、日本はそうした面からも、安全な水の確保に苦しんでいる世界の人々を救うために、「人間中心の多国間主義」のリーダーシップを発揮できることがあるのではないでしょうか。
◇女性の笑顔広げるエンパワーメント
SGIとしても、市民社会の側から「水の国際行動の10年」を支援する一環として、水問題の影響を日常的に強く受けている女性に焦点を当てた、「命を守る水と女性」展(仮称)を、今後開催していきたい。
水道設備が身近にないために、低所得国の女性や少女が1年間に水汲みの作業に費やす時間の合計は約400億時間にも及ぶといわれ、その負担は非常に大きなものになっています。
水汲みのために歩く道には危険な場所も多く、また重い水を毎日運ぶために、体を痛めてしまう女性も少なくありません。安全な水を確保する環境が整えば、そうした問題が改善されるだけでなく、女性が他の仕事に就くことができたり、多くの少女が学校に通えるようになり、女性のエンパワーメント(内発的な力の開花)につながる道が開けてくるのです。
展示では、こうした女性を取り巻く状況とともに、水問題の解決のために行動する女性たちの姿も取り上げていきたいと思います。
国連でジェンダー平等と女性のエンパワーメントに取り組むUNウィメンは、その一つの事例として、タジキスタンのある女性の行動を紹介しています。
彼女は夫を亡くし、5人の子どもを育てながら、川から水を汲むために何時間も歩かねばならない生活を送っていました。
水の問題で悩む村人の多くが"状況は変わらない"と絶望する中、彼女は友人とグループを結成して行動を開始しました。複数のNGOからの支援を受け、村人も総動員して14キロに及ぶ水道管を引いた結果、3000人以上の村人たちが安全な水を飲むことができるようになったのです。
彼女は語っています。
「これは私たちの小さな勝利です。自分たちの生活をさらに向上したいと思っています。小規模な農園や温室を作る計画もあります。成功する自信があります」(UN Women日本事務所のウェブサイト)
こうした女性たちの笑顔の広がりこそが、SDGsの前進を何よりも物語るものになると、私は考えるのです。
国連本部で行われた「水の国際行動の10年」の開幕式で、市民社会の代表として発言したのも13歳の少女でした。
カナダに住む先住民で、水と環境を保護する活動をしてきたオータム・ペルティエさんは、「私たちは、必要な時に水を飲む権利があります。それは、豊かな人だけでなく、すべての人々の権利です」と訴えました。
その上で彼女は、「子どもたちが誰一人として、きれいな水とは何か、水道から流れる水がどんなものかを知らないまま、育つようなことがあってはなりません」と強調し、「今こそ勇気を奮い起こし、地球を守るために、お互いをエンパワーする時です」と呼び掛けました。
SGIとしても、水資源の保護を通じて人間と地球を守る行動の輪を市民社会で広げるために、「命を守る水と女性」をテーマにした展示を行い、水問題の解決を後押ししていきたいと決意するものです。
◇17の目標を担う中心拠点を発表
最後に第五の提案として述べたいのは、世界の大学をSDGsの推進拠点にする流れを強めることです。
国連と世界の大学を結ぶ「国連アカデミック・インパクト」が2010年に発足してから、加盟大学は約140カ国、1300校以上に広がっています。
このアカデミック・インパクトが昨年10月、注目すべき発表を行いました。
国連のSDGsの17の目標について、各分野で模範となる活動をしている世界の17大学を選び、ハブ(中心拠点)の役割を担う大学として任命したのです。
例えば、目標2の「飢餓をゼロに」では、南アフリカのプレトリア大学が選ばれました。
プレトリア大学は、食糧問題や栄養に関する研究所を擁し、アフリカ諸国や国際機関と協力して研究を進めてきたほか、食糧安全保障をテーマにした国際会議を数年にわたって共同開催してきました。授業でも、SDGsのさまざまな指標に沿う形で、全学部のカリキュラムを考慮することが優先されています。
目標5の「ジェンダー平等」では、スーダンのアッファード女子大学が任命されました。女性が地域や国で活躍することを目指す教育が進められ、「ジェンダーと開発」「ジェンダーと平和研究」など、ジェンダーを専門とする四つの修士課程が開設されています。
目標16の「平和と公正」では、イギリスのデ・モントフォート大学が選ばれました。難民や移民との共生を目指す国連のキャンペーンで主導的な役割を担う大学として、難民の若者たちに教育の機会を提供するとともに、難民と移民の尊厳を守る重要性を訴え、難民の人たちの体験を記録し、共有するプロジェクトを推進しています。
日本の大学では、目標9の「産業と技術革新」の分野で、長岡技術科学大学が任命されました。
これらの17大学が3年間の任期を通し、SDGsのそれぞれの目標の取り組みを牽引していくことが期待されているのです。
国連広報局でアカデミック・インパクトの責任者を務めるラム・ダモダラン氏は、「学問は他者を利し、学生は何かを生み出す。SDGsに取り組んでいる大学ほど、この組み合わせが効果的で劇的に作用している場所はない」と強調していますが、私もまた、大学が持つ限りない可能性を強く感じてなりません。
大学には社会の"希望と安心の港"としての力が宿っており、その力を人類益のために発揮する意義は、極めて大きいのです。
そこで私が呼び掛けたいのは、この17大学を中心に"SDGs支援の旗"を力強く掲げる大学の輪をさらに広げることです。
アカデミック・インパクトの加盟大学をはじめ、多くの大学が、力点を置くSDGsの目標を表明して、意欲的な挑戦を行うキャンペーンを進めていってはどうでしょうか。
また、同じ分野に取り組む大学間の協力を推進し、学生のグローバルな連帯を広げる意義を込めて、国連創設75周年を迎える来年に「SDGsのための世界大学会議」を開催することを提案したい。
青年の役割を重視する国連の「ユース2030」の戦略では、創設75周年などで国連のサミットが行われる際に青年の声を強めることや、国連事務総長と青年との定期的な対話の場を設けることを促しています。
その一環として、各国の教育者と学生の代表が参加する世界大学会議を開催し、SDGs推進の機運を高めるとともに、「国連事務総長と学生との対話フォーラム」を実現してはどうかと思うのです。
◇創価大学とSUAの意欲的な活動
これまで私は、創価大学の創立者として「大学交流の推進」に力を入れるとともに、世界の諸大学の総長や学長と「大学の社会的使命」を巡る対話を重ねてきました。
17大学の一つに選ばれたアルゼンチンのブエノスアイレス大学とも交流があり、長年にわたり総長を務めたオスカル・シュベロフ氏とお会いした時には、積年の思いを次のように述べたことがあります。
「私は『大学間の交流』によって、世界のよりよき将来のために『新しい知恵』と『新しい価値』が生まれてくると期待しています。対話と相互理解のなかからこそ、何らかの『新しい力』と『新しい理想の方向性』が創造されると信ずるからです」
その際、シュベロフ氏が「世界の大学は共通の課題をかかえています。その解決のために、各大学は力を合わすべきです」と共感を寄せてくださり、「教育者は、一番困っている人に手を差し伸べるべきだ」との信念を語っておられたことが深く胸に残っています。
創価大学はアカデミック・インパクトの一員として、活動の柱となる10原則のうち、「人々の国際市民としての意識を高める」「平和、紛争解決を促す」「貧困問題に取り組む」「持続可能性を推進する」「異文化間の対話や相互理解を促進し、不寛容を取り除く」の五つの原則を中心に取り組んできました。
その上で、SDGsがスタートした16年以降は、国連難民高等弁務官事務所と「難民高等教育プログラム」の協定を結び、難民の学生を受け入れてきたほか、国連開発計画や国連食糧農業機関との協定に調印し、交流を進めています。
授業の面では、SDGsとつながりの深い平和・環境・開発・人権の分野からなる「世界市民教育科目群」を昨年設置しました。
このほか、持続可能な循環型社会の構築をはじめ、SDGsに関連するさまざまな研究に積極的に取り組んでいます。
アメリカ創価大学(SUA)でも、地球的な課題に関する教育に力を入れてきました。
学生が主体となって探究したいテーマを決めてクラスごとに共同研究や実地調査を行う、「ラーニング・クラスター」という伝統の教育プログラムがあるほか、ニューヨークの国連本部などで実施する研修の機会が設けられています。
また、国連の「国際非暴力デー」にあわせる形で、14年から毎年、「平和の文化と非暴力」会議を開催してきました。
私は2006年に発表した国連提言で、世界の大学が社会的使命の一つとして「国連支援の拠点」の機能を担うことを呼び掛けながら、国連の未来図を次のように提起したことがあります。学生や大学が「点」となり、それをつなぐネットワークが「線」となって、やがては国連支援の輪という「面」が地球全体に広がっていく——と。
その大学の輪は、アカデミック・インパクトの枠組みを通じて、世界1300以上の大学にまで広がりをみせています。
今回の拠点大学の発表を新たな契機として、世界のより多くの大学がSDGsの推進のためにさらに力を注ぎ、それぞれが積み上げてきた経験を共有しながら、誰も置き去りにしない地球社会を築くための行動の連帯を強めていくべきではないでしょうか。
◇三つの柱を軸に世界市民教育を
SGIでも、国連支援の活動の柱としてきた「世界市民教育」を通して、SDGsの推進のために積極的な役割を果たしていきたいと考えています。
これまでSGIが地球的な課題に関する展示を行ってきた会場の多くは、世界各地の大学であり、その中には、拠点大学に選ばれたノルウェーのベルゲン大学も含まれています。
大学こそ問題解決のための英知を結集し、新しいアプローチを育む揺籃であり、時代変革への力強いエネルギーは青年、なかんずく学生たちから生まれると確信するからです。
昨年6月、人権活動家のエスキベル博士との共同声明の発表が行われた場で、その共同声明を壇上で受け取ったのは二人の学生であり、その翌日に共同声明を巡る「青年の集い」を開催した場所も、ローマの学生街にある会場でした。
共同声明で私と博士は、「世界市民教育を通じた青年のエンパワーメント」の推進を提唱し、その柱として次の3点を挙げました。
�悲惨な出来事を繰り返さないため、「歴史の記憶」を胸に共通の意識を養う。
�地球は本来、人間が「共に暮らす家」であり、差異による排除を許してはならないことを学ぶ。
�政治や経済を"人道的な方向"へと向け、持続可能な未来を切り開くための英知を磨く。
今後も世界の大学との連携を深めながら、SDGsに関する意識啓発の展示などを行い、この3点に基づいた「世界市民教育」の裾野を着実に広げていきたいと思います。
ローマの学生街で「青年の集い」が開催された日(6月6日)は、くしくも創価学会の牧口初代会長の誕生日でありました。
創価学会とSGIの源流には牧口会長の教育思想がありますが、その要諦をなすメッセージは次のように綴られています。
「目的観の明確なる理解の上に築かれる教育こそ、やがては全人類がもつ矛盾と懐疑を克服するものであり、人類の永遠の勝利を意味するものである」(『牧口常三郎全集』第8巻、第三文明社。現代表記に改めた)
SGIは、この教育が持つ限りない可能性をどこまでも信じ、青年のエンパワーメントを通して、すべての人々が尊厳を輝かせて生きられる「持続可能で平和な地球社会」の建設に邁進していく決意です。
語句の解説
注4 ストップ・キラーロボット
キラーロボット(殺傷ロボット)などの「自律型致死兵器システム(LAWS)」の開発と使用の禁止を求め、2013年4月に発足した市民社会の国際的なネットワーク。人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチが調整役を務め、アムネスティ・インターナショナルやパグウォッシュ会議などの多くのNGOが活動に参加。SGIもメンバーとして名を連ねている。
注5 水の国際行動の10年
水資源の持続可能な開発と統合的な管理をはじめ、国際的に合意された水関連の目標の達成などを目指して、2018年から28年まで進められる取り組み。1981年から90年までの「国際飲料水の10年」と、2005年から15年までの「『命のための水』国際の10年」に続く、水に関する第3次の国際10年となっている。
注6 第7回アフリカ開発会議
日本が主導する形で1993年から継続的に行われてきた国際会議で、今年8月の横浜での開催で第7回となる。前回の会議は2016年にケニアのナイロビで行われ、アフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」の重要性が提唱された。アフリカの国々だけでなく、国連や世界銀行などの国際機関や、アジア諸国、民間企業、市民社会なども議論に参加する枠組みとなっている。